✴︎Selection✴︎
スムスムが選んだとっておきの手仕事をご紹介。
-マラケシュ“無形文化財” par səmsəm-
〔彫金師 モハメッド・ハリールの真鍮細工〕
昨今のモロッコのヴィンテージやアンティークのブームの中、日本をはじめとする海外からの買い付けが殺到し、この国にはもはや古いものが尽きてしまったかのように思えることが多々ある。そんな状況を目の当たりにし、この国に住まわせてもらい、この国にお世話になっている立場・身分として、そしてこの国の財産を享受した側の国に属するひとりとして、責任の一端を感じざるを得ません。
そこでスムスムでは、年々廃れつつあるこの国の職人たちの技を保存・継承する取り組みにも強い関心を寄せています。それも、今日スークに氾濫しつつある“伝統工芸”のうわべを装っただけの大量生産品とは一線を画し、強い誇りを持って仕事にあたっている作り手たちとの出会いを大切にして。
(その試みのひとつとして、地方部の女性たちとともに作り始めたのがゼリージュウタン。)
メディナの一角。小さな一坪ほどの工房でひとりで作業をする彫金職人 モハメッド・ハリール氏と知り合うことになったいきさつは、ちょっとした誤解と人違いという偶然から。今日まれに見る精緻な装飾を彫り出すハリール氏は12歳から彫りを学び始めた、この道50年の職人。
ひとり精神統一する。心身ともに空っぽになる。すると、“たがね”がひとりでに模様を描き出す。その見事な手仕事は、今は滅多に見ることができないほどに繊細かつ華麗。トラディショナルな技と意匠でありながらにして、その図案の展開は実にイマジネーションに富んでいて、個性的で愛らしくも刹那的な文様を刻んでいる。
自分もどうやらシバニ(老年)になった。敬虔な見た目とは裏腹に陽気で冗談が口を尽きないハリール氏が、ふと呟いた。そう嘆くのは、数人いる息子たちはこの類い稀なテクニックを継ぐ選択をしなかったから。そして矢継ぎ早に言う冗談は、「ここに通って、ぜひ技を盗んでみなさい」。
まさに今、自分たちが生きるこの同じ時代に生まれた真鍮製のトレイ。これらもまたやがてヴィンテージとなり、100年後にはアンティークと呼ばれるようになってゆく。
今日の手仕事品とともに年を重ねていくという愉しみや歓び、新たな“もの”との向かい合い方を提案すべく、この度、ハリール氏の真鍮細工の販売をスタートいたします。お願いして作ってもらったものではなく、ハリール氏の世界観から仕上がったものをそのまま買い付けしているため、すべて一点ものでのご案内となります。
経年とともに深い味わいを愛でることができる真鍮の特性ごとお愉しみください。色合い・質感もまた、自分だけの特別な1枚になりますように。
※最後の写真は私物です。特別ていねいに取り扱うということなく日常的に気軽に愛用しております。水洗いしたり、飲み物や食べ物をこぼしたり。
すると、すでに自分仕様の味わいが出てきました。最初はかなり光沢がある真鍮ですが、やがて経年により発色がくすみ、なんとも言えない深い味わいと美しいニュアンスが出てまいります。100年後のアンティークへの第一歩かのように。
もちろん光沢がある質感がお好みの方は、お酢や重曹などで定期的なお手入れをしていただくことで、当初の艶を維持していただくことが可能です。
どうぞ、ご参照ください。
〔səmsəm SÉLECTION〕モハメッド・ハリールの真鍮トレイ(25cm) 002
直径:約25cm
サイズはあくまで目安となります。手仕事品のため個体差がございます。